深瀬昌久
鴉 - The Solitude of Ravens -

12 SEP – 12 OCT 2008


RAT HOLE GALLERYでは、写真の「私性」にこだわり、妻や家族、やがて自身にレンズを向けていく一連の作品制作で知られる深瀬昌久の代表作「鴉」の個展を開催いたします。

 1934年、北海道中川郡美深町で祖父の代から続いた写真館の家に生まれた深瀬昌久は、幼少の頃から写真に親しんで来ました。父の跡を継ぐため日大芸術学部写真学科へ入学した深瀬は、土門拳などのルポルタージュ写真に触発されて東京の下町の風景を撮り、カメラ誌への応募で特選に選出されるなど注目を集めていきますが、折から日本の復興期の風潮のなかで、卒業と同時に新しい写真の感性を求める広告宣伝の会社に就職、コマーシャルの仕事にかかわりながら自分自身の作品制作を模索していきます。初めての個展「精油所の空」(’60)に続く「豚を殺せ」(’61)では、カラーとモノクロによる二部作に構成、屠畜場の赤い血の光景、子を宿し死産の後に出奔した年上の女性に寄せる思慕を、挑戦的な作品にまとめた展示は高い評価を得るとともに、生と死を見つめることになった深瀬のその後の作品の傾向を決定づけることになっていきます。

 本展「鴉」は、深瀬が重要な作品『遊戯』(’71)、『洋子』(’78)を生み出すきっかけを作った妻洋子との離別を迎える頃から制作が始められています。やりどころのない寂しさと写真を撮り続けることで相手を傷つける自身の業を、自問しながら夜汽車で故郷の北海道へ逃げるように向かった深瀬が、道すがら撮った写真に多くの鴉の姿が写されていることを見出したことから、このシリーズはさらに自分が居住する
「東京」編に至るまで6年にわたる制作の幅が広げられていきます。本展では作者の心情をより語る比較的初期の作品に焦点を当てる形で構成されています。

 なお、作家、深瀬氏自身による個展「鴉」は ‘76年に東京ニコンサロンで開催されましたが、本展はそれ以降、日本ではじめての展覧となります。’92年の不慮の事故により作家活動を途絶された深瀬氏を支えるエステートのご協力によって本展が実現しましたことをここに記させていただきます。

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